東京高等裁判所 昭和28年(う)1240号 判決
被告人 尾形孝
〔抄 録〕
弁護人の論旨一について。
原審が証拠調をした被告人に対する昭和二十八年一月二十二日附司法警察員の供述調書に被告人の供述として所論の如き記載のあることは所論のとおりである。しかし刑事訴訟法第三百三十五条第二項所定の刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、裁判所に対しかかる事実が主張されたときという意味であつて、被告人が司法警察員の取調べに対し「私は酒を五合位呑んで酔つ払つていたので、何故人様の家に入つて泥棒したのかその動機や理由はわかりません云々」と供述し、右供述を録取した供述調書を公判廷で証拠調をしたというだけでは未だ以て右の主張があつたものということはできない。原審公判調査を精査するも、被告人及び弁護人より何等右主張がなされた形跡がなく、只弁護人より「今度の犯罪も出所して見ると母親と妹は何処へ行つたかわからず、兄二人は相変らず、ぐれているという具合なので、やけ酒を呑んだ挙句の犯行でありますが、その点について被告人は何等の弁解もなさず、十分自分の行つたことに対し責任を自覚している訳であります」との弁論がなされたことを認め得るに過ぎない。而して弁護人の右弁論は専ら情状として被告人が本件犯罪を犯すに至つた事情を述べたものに外ならないのであるから、これに対し原審が特に判断を示さなかつたことは何等違法ではない。論旨は理由がない。